あけにーブログ 〜フランスで考えたあれこれ

日本では余りに伝えられないニュース、メディア、ドキュメンタリー、本、美術、旅行記などを紹介。

マルセイユに小旅行③ コロナ中の息抜き

 そういえば、マルセイユとはそういうぶっ飛んだ街だった。数十年前に住んでいた頃は、払う時点でお財布がない事が多かった私は、よく近所の店でツケで買い物をした。夫は「そんなことが出来るのか?」と驚いていたが、それは信頼関係の賜物だった。チーズ屋のおじさんは「教師を辞めてお金を貯めて店を開いた」とかアラブ24時間スーパーの兄ちゃんは「モロッコ人だが7歳の時にフランスに家族と移住した結構な苦労人だ」など近所の店員の人生を隈なく知っていた。もう、そんなマルセイユは存在しないのかもしれない。

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<海辺を歩くと地中海の色が眩しい>

 当時、大学の帰り道に駅から歩いていると「お嬢ちゃん!」と声が掛かった。振り返るとケバブ屋のオジサン達が手招きしている。行ってみると、「このお姉ちゃんは世界一周旅行している同胞だよ!」と日本人女性を紹介してくれた。ケバブ屋のおじさん達は人が好さそうだったが、その日本人女性の安全が気になって、家に招待し、楽しい旅行のお話を聞いたのを覚えている。確か「未来さん」という小柄の可愛らしい女性だったが、中東を一人で渡ってきた勇敢な人だった。そういう、ハプニングが良くある街だったのだ。

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<パニエ地区の狭い道>

 マルセイユで絶対行きたいのは、フランス最古の教会と言われるサン・ビクール修道院(Abbaye Saint-Victor)だ。外観はまるで要塞のようだが、5世紀に建立された教会で後に修道院にもなった。その原始教会を見るにはクリプト(地下)に降りていく。するとローマ時代(4~5世紀)の彫刻が施された石棺がゴロゴロ置いてある。

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<サンビクトールの原始教会とローマ時代の遺跡>

 昔は疫病が流行るのを避けるために街の中に死人を葬るのを嫌がったために、こうした教会は街の外にあるのが常だった。今日はすっかり、街中で馴染んでいるが昔は城壁の外であった。ここから見える港の眺めも絶景で、坂をちょっと登る価値はある。外に出たら、殆ど向かいにあるマルセイユ名物の店「ナベットのオーブン(Four de Navette)」でオレンジ花水の香りのするビスケット(Navette)を買った。少しパサパサして決して、「美味しい!」と叫ぶほどではないのだが、この香りが懐かしい。サンビクトールとその絶景とマルセイユの歴史がギュッとに詰まっている味がした。