あけにーブログ 〜フランスで考えたあれこれ

日本では余りに伝えられないニュース、メディア、ドキュメンタリー、本、美術、旅行記などを紹介。

フランスで早くもワクチン接種体験

  日本では高齢の両親のワクチンも今のところまだだが、フランスでは中年のワクチン接種が始まった。ワクチン接種をすれば、両親に安心して会いに行けるし、国外移動もワクチン証明書で簡単になる見通しだ。オンラインでの申し込みはスムーズに行き、解禁された1週間後(5月中旬)に早速予約が取れた。

 ワクチンの予約分野ではドクト・リブ(Docto Lib)というフランスのスタートアップが大活躍をしている。日本では予約がキャンセルされたり(東京都に住む知り合いの話)、架空番号でも予約可能などといったシステムの設計ミスが報道されるなか、このサイト・アプリは非常に優秀である。通常は、医者の予約を入れるサイトで、空いている時間帯が直ぐに分かるので前から使っていた。今回、ワクチン予約でパンクすることもなく、大成功。もはや、ドクト・リブを知らない人はフランスではいない勢いだ。

f:id:akenochan:20210521065400p:plain<doctolibのサイト画面>
 ドクト・リブの使い方は非常に明確かつ合理的。まず、サイトで、1.   コロナワクチン接種をクリック、→2.年齢や条件をクリック(まだ、ワクチンを受けられない年齢層などはそれ以上進めないようにできている)→3.ワクチンの種類とその会場(会場によってワクチンの種類が違う)が示され、自分で接種したいワクチン及び場所を指定する。

 私の場合は、解禁された朝の10時頃にのんびり始めたため、既にパリ市内での接種は予約完売。パリ郊外のモンルージュでようやく申し込めた。同サイトで感心なのは1回目の接種を予約すると自動的に2回目の接種を1か月後の同じ場所で提案してくる。つまり、2回目の接種を最初から組み込んで考慮されたシステムとなっている。どちらも、空いている日程と時間が選べるのが便利だ。フランスでは当初、アストラゼネカのワクチンについては、血栓症との関連性が定かでなく、一度中断された経緯があった。そのため、未だ接種を躊躇する人が多い。このため、自らワクチンの種類の選択肢を設けることで、ワクチンの幅広い接種を促していると言える。

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モンルージュのワクチン会場は普段はカルチャーセンター及び劇場で1930年代の建物

 当日、夕方19時15分の予約予定ギリギリに着くと、30分ぐらいの遅れがあると伝えられてホッとする。しかし、予約制のために人で溢れているという感じはなく、皆、外で待機。ちょっと気になったのは、結構、若者がいること。これは年齢層が低くても重症化リスクが高い若者はワクチン接種が可能であるからだ。予約時間がくると6分おきに約10名が呼ばれ、入館する。手を消毒して中に入ると予約表の名前と身分証明書の名前が一致するか確かめ、次の部屋に通してくれる。

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入館し、氏名のチェックをされる

 次の部屋では国民保険証をコンピュータ入力し、熱がないか、コロナに感染したことがあるかといった質問票に答える。その後、広い待合室で待機してから、医者との面会で相談する。私の場合は息子がコロナにかかってしまったので、ワクチンを受けられるかどうかを確認(一度、かかった人は1回だけの接種で、6か月後で良いとの回答だった)。昨日は、同じ会場で夫が接種を受けていたのだが、そこにはなんと医師でもあるヴェラン厚生大臣がおり、テレビで報道されていたらしい。夫の担当だった皮肉屋の医師は「自己プロモーションだよ」と笑っていたらしいが…

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質問票記入➡待合室➡医者と面会ブース➡待合室➡注射ブース➡証明書待ちの大会場

 医師との面談のあと、再び広い待合室で名前が呼ばれ、注射をするブースに通される。注射してくれた青年は一人で座っており、医学生だという。ふと、日本で伝えられた「使用済みの注射針を使用」とか「食塩水を打った」というとんでもミスを思い出す。日本在住の友人から「先進国とは思えない!」との嘆きのコメントが届いて知った。プロトコールがしっかりしていれば、防げるのではないかと思う。フランスの場合、こういった場合に無駄に二人などと配置しない。一人の責任が大きいのも責任が曖昧にならず、ミスを防げる勝因かもしれない。

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ワクチンを打って15分、異常がないかじっとしている間に証明書が作られる。

 接種が終わり、最後の待合室で15分間待つ。フラフラしないか確かめるらしい。そして、第1回接種証明書であるQRコードを渡される。まだ、制度は確立されていないが、この第二回接種証明書で少なくとも欧州内では自由に移動できるかもしれないと期待される。

 私が渡仏したウン十年前、フランスでは県庁、郵便局、市庁舎などどこでも長い行列ができて、社会主義国家かと腹を立てたことを思い出した。今回のスムーズなワクチン接種を経て、「フランス人、やればできるでないか!」というのが感想だ。おまけに有難いことに、国民健康保険証があればワクチンは無料だ。

 ネット革命が起き、フランス人の合理的でシステマートなワクチン接種体制にフランスの底力を感じた。インターネットは確実にいろんな意味でフランスの姿を変えている。

 

 

 

ついに子供が感染し、フランスでコロナ体験

 ついに高校生の息子がコロナにかかってしまった。今のところ、残りの家族には感染していないが、自宅勤務の夫の上司もコロナに感染し、見回すと知り合いもコロナ感染者ばかりだ。レストランや劇場は閉鎖、門限が設定されており、日本の10倍の感染者がいるというのは納得だ。もはや、死者数は10万に近く、死者数でも1万人に達していない日本とは、状況を比べることは出来ない悲惨な現状だ。

 息子の具合は突然、日中に午後から風邪のような症状になり、その夜は寝れず、軽く幻覚症状になったらしい。次の日も学校に行こうとするものだから、「検査してから行きなさい」と阻止出来たのは、フランスで抗原検査が手軽に受けられ、結果が直ぐに出るからだ。近くの薬屋で受けられる抗原検査(Antigenic)を電話で予約する。今日はもう予約一杯と言うところを「息子が学校に行けるか知りたい」と説明すると、空き時間に入れてくれた。こう言う融通が効くところがフランスでは有難い。結果は15分で出た。「完全に陽性です。こんなに素早く出るのは珍しい」と太鼓判を押された。

 息子が感染者ならと後日、残りの家族も検査したところ、有難いことに全員陰性だった。取り敢えず、次男も学校を欠席させ、それぞれの学校に連絡。感染した長男は10日間、感染者の家族で感染していない次男は、17日後にやっと学校に復帰出来ると言う。次男は飛んで喜んだ。部屋で漫画を読みゲームをする目論みなのか...ただでさえ、フランスの中学は休日が多いのにと心配になる。

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<結果が直ぐに分かる抗体検査は薬屋のテントで> 

 次男の中学校の保険医から電話があり、抗原体検査は症状がないと陽性と出ないらしく、PCRを受けて欲しいと頼まれた。何故なら、次男も感染している場合は、学級閉鎖に至るからだ。程なくして、今度は国民保険から、長男のコロナウイルスが変異ウイルスかどうかをPCR検査をする必要があると連絡を受ける。また、長男がマスク無しで会った友人の連絡リストを報告しろとのこと。学校ではマスクを外さないらしいが、お昼を一緒に食べたり、部活の友人など、ゆうに10名ぐらいの連絡先を通達した。

 国民保険のコロナ対策の素早い機能に感激した。幸い長男の容態は直ぐに回復に向かい、現在も部屋に篭っているがもうすぐ解禁になる。困ったことは数日後から味が分からなくなったところだ。我々、家族が社会復帰するには、17日後にもう一度、PCR検査で陰性が出てからだ。パリの小さなアパートでのロックダウンに、私まで味覚を失いそうだ。

 

*その後、長男はすっかり回復し、奇跡的に家族は誰も感染せずに乗り越えてました!

 

マルセイユに小旅行③ コロナ中の息抜き

 そういえば、マルセイユとはそういうぶっ飛んだ街だった。数十年前に住んでいた頃は、払う時点でお財布がない事が多かった私は、よく近所の店でツケで買い物をした。夫は「そんなことが出来るのか?」と驚いていたが、それは信頼関係の賜物だった。チーズ屋のおじさんは「教師を辞めてお金を貯めて店を開いた」とかアラブ24時間スーパーの兄ちゃんは「モロッコ人だが7歳の時にフランスに家族と移住した結構な苦労人だ」など近所の店員の人生を隈なく知っていた。もう、そんなマルセイユは存在しないのかもしれない。

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<海辺を歩くと地中海の色が眩しい>

 当時、大学の帰り道に駅から歩いていると「お嬢ちゃん!」と声が掛かった。振り返るとケバブ屋のオジサン達が手招きしている。行ってみると、「このお姉ちゃんは世界一周旅行している同胞だよ!」と日本人女性を紹介してくれた。ケバブ屋のおじさん達は人が好さそうだったが、その日本人女性の安全が気になって、家に招待し、楽しい旅行のお話を聞いたのを覚えている。確か「未来さん」という小柄の可愛らしい女性だったが、中東を一人で渡ってきた勇敢な人だった。そういう、ハプニングが良くある街だったのだ。

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<パニエ地区の狭い道>

 マルセイユで絶対行きたいのは、フランス最古の教会と言われるサン・ビクール修道院(Abbaye Saint-Victor)だ。外観はまるで要塞のようだが、5世紀に建立された教会で後に修道院にもなった。その原始教会を見るにはクリプト(地下)に降りていく。するとローマ時代(4~5世紀)の彫刻が施された石棺がゴロゴロ置いてある。

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<サンビクトールの原始教会とローマ時代の遺跡>

 昔は疫病が流行るのを避けるために街の中に死人を葬るのを嫌がったために、こうした教会は街の外にあるのが常だった。今日はすっかり、街中で馴染んでいるが昔は城壁の外であった。ここから見える港の眺めも絶景で、坂をちょっと登る価値はある。外に出たら、殆ど向かいにあるマルセイユ名物の店「ナベットのオーブン(Four de Navette)」でオレンジ花水の香りのするビスケット(Navette)を買った。少しパサパサして決して、「美味しい!」と叫ぶほどではないのだが、この香りが懐かしい。サンビクトールとその絶景とマルセイユの歴史がギュッとに詰まっている味がした。

 

マルセイユに小旅行② ー コロナ中の息抜き

 久しぶりに足を踏み入れたマルセイユは、見違えっていた。あんなに汚かった街(道の隅などに溝鼠を殺す緑の餌が所々にバラまかれていた)が整備され、建物も道も随分とピカピカになっていた。フランス語でパリに「光の街(Ville lumière) 」という名称があるように、マルセイユは「ギリシャ人の街(Ville Phocéens)」と呼ばれている。ペルシア人の占領を逃れてきたフォセアの古代ギリシャ人がその紀元前600年に作ったと言われる。ローマ人がマッシリア(マルセイユの語源)と呼んだのはその随分後からであるらしい。古代ギリシャ人がこの地形を選んだのは流石にお目が高い。「旧い港(Vieux Port)」は両側を丘に囲まれており、港が外海から守られている優れた立地条件にある。その一つの丘にマルセイユの象徴であり、守り神でもあるノートルダム・ド・ラ・ガルド教会(何故かボンヌ・メール=良い母という愛称で親しまれている)が君臨する。

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<旧い港=ビユポールからのノートリダム教会>

その地形といい、親しみやすい人々と言い、イタリアのナポリを彷彿させる、得難い魅力に溢れる街だ。また、治安が悪く、人々が陽気で調子が良いといった評判も何故か二都市に共通する。方言も色濃く、次男は直ぐにマルセイェーズのアクセントをふざけて真似したがる。すると大阪弁のようにリズミカルで面白く聴こえてくるから不思議だ。

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<サンジャン要塞付近のエリアで海を眺めることが出来る>

 港付近の観光地以外は、街中にタグで落書きがしてあったが、大聖堂の周辺は、昔と見違えるように博物館が2件も立ち、散歩道が整備され、大きな広場から海を眺めることが出来る。残念ながら、地中海文明博物館もサンジャン要塞(ルイ14世が建てた)もローマ時代の波止場博物館も閉まっていたので、さらに港の近くのノアイユ市場に足を伸ばした。

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<大聖堂を背景にした博物館エリア>

そこはまるで北アフリカであった。買い物客も、果物の値段もアフリカさながらであり、子供たちは驚いていた。夫には「スリに気を付けろ」と注意され、長男は早速、友達に「ケバブが2ユーロだ!」とSNSで報告(友人にはネズミの肉では?と疑われたらしい)。でも、危ないという感じはここではない。ただ…そこでは我々家族以外は誰もマスクをしていなかった!マルセイユでは、フランスのルールは共通ではないのか?全国マスクしていない人は罰金制度ではなかったのか?(恐らく、マルセイユの警察はもっと深刻な事件で忙しいのではないかという結論に達した)こう言った下街以外でもマスクをしている人々は人口の半分ぐらいとみた。そのルールに従うマルセイユ人のまたその半分が顎マスクである(しかし、何故か店内でマスクしていない人は見かけなかった)。実質のマスク人口は4分の1ではないか?

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ふと、18時の門限はどうなっているのか心配がよぎった。帰宅後、借りアパートのテラスから外に顔を出した18時半ぐらい、街は渋谷の交差点とまではいかないが、人に溢れていた...マルセイユには独特の常識があった事を思い出した。街は整備されていても、そこは数十年来、住んでいた頃とちっとも変わっていなかった。

 

 

マルセイユに小旅行① ‐ コロナ中の息抜き

 マルセイユに行ってきた。レストランは閉まっているし、18時は門限だし、と制約が多く、実際にバカンスに出かけるかどうか迷った。日本のようにGo toトラベルといったキャンペーンもないし… しかし、家族会議の結果、パリから長らく離れていない夫は「空気を換えよう(フランス語では”Changer d’Air”といって、気分転換という意味)」ということで、決行した。どのみち、ホテルでは外では食べられないし、もともと、家族で休暇の時はホテルを使うことはほとんどなく、借り屋が常だ。場所は迷った結果、コロナご時世に国外に行く訳にもいかず、天気も良い南仏のマルセイユにあっさりと決まった。パリの冬は太陽が恋しくなるのだ。マルセイユは学生時代に住んでいたこともある勝手知ったる街。確かに治安が悪いと余り評判は良くないが、実は本当に素晴らしい街なのだ。4年間ぐらい住んで、去ってからかれこれ何十年(余り詳しくは数えたくない)。この目でどう街が変わったかを見たかった。今回は名物である魚介類スープ「ブイヤベース」は諦めるにしてもだ。

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<マルセイユの象徴のボンヌ・メール(良いお母さん)教会が見える旧港のアパート>

 補足するとフランスのバカンスは、フランス人の休暇日数が長いために、短期休暇以外はホテルを使う人は少ない。1週間もホテルに泊まっていては、経済的に長い休暇に何度も出かけられないし、家族でレストランに毎晩、行く訳にもいかない。大抵、行っても1回ぐらいだ。ファミレスとか立ち食いそばとかないフランスではレストランは非常に高くつくのだ。それで、必然的に多くの市民はアパートや家を1週間借りる。土曜日から土曜日というのが慣例で、そのために、子供の休み中の土曜日は非常に車が渋滞する。

 早速、幾つかある貸家サイトでアパートが見つかった。旧市街のガレージ付き物件は1件しかなく、早速予約完了。マルセイユに引っ越したての大昔、他の地方の車ナンバーを付けていた夫の車は、2日間連続でこじ開けられた。車の中に取るものが無かったので、ロックが壊れたのみであったが、右ドア、左ドアとロックが馬鹿になり、トランクからしか出入りが出来なくなった苦い思いを思い浮かべ、路駐は避けたいと思っていた。マルセイユは住めば都だったが、行ってはいけない地域や、やってはいけないことを守ることが楽しく過ごせる秘訣だ。

 マルセイユは思ったより、遠かった。パリーマルセイユ間はTGVではなんと3時間半で着くが、車だと9時間。なにせ、775キロあるのだ。日本人なら電車で行くだろうが、向こうで車が必要になる。海辺のキャランクに行ったり、周辺都市を回るにも電車などでは不便だ。家族四人だとやはり、車は経済的。二人で運転を交代すれば良いかということで、車で出発。荷物なども楽だし、日本の首都圏のような交通網がないので、ついつい、車で出かけるのが癖になる。しかし、着いたらクタクタだった。門限の時間も過ぎてしまっていた。

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<何十年ぶりにマルセイユに行ったらハリウッドのような看板が!?>

 マルセイユに小旅行②に続く…

フランス人は何故ワクチンを接種したくないのか - 第2弾

 2021年の年明け、カステック首相は15億ユーロでおよそ2億回分のコロナワクチンを注文し、ワクチンキャペーンが始まった。しかし、隣国と比べて「全く進まない」「ロジが悪い」などと今度はその進み具合が批難された。パリ在住のギリシャ人の友人と「ワクチン接種したくないのに遅いと怒るってどう?」と思わず苦笑してしまった。「結局フランス人はノーと言いたいのだ」と二人で結論付けた。

 フランスでは劇場、映画館、美術館など全ての文化施設が閉鎖されている。これを打破したい俳優、音楽家など文化人が200名ほどワクチン支持キャンペーンに署名した。これしか仕事に戻る方法がないという必死のモチベーションだろう。それでも、巷ではワクチンに殺到するという感じではない。

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Les Echos (Lewis Joly/AP/SIPA)

  本稿第1弾では2020年年末のアンケートに触れたが、今年になって行われたOdoxaの新しいアンケートでも依然としてフランス人のワクチン不信は続いている。

Coronavirus : les Français toujours réticents à se faire vacciner (francetvinfo.fr)

 1月4日の公共ラジオフランスインフォによるとワクチンを打たない人は58%と先月より8%も増えているという。これには前述の【2.ワクチンを拒否することで政府へ懐疑的という政治的な意思表示】もあるようだ。

 アンケート結果から分かる特徴は35~49歳の32%の人がワクチンに賛成しているのに対し、65歳以上では58%と高い。女性は男性よりも予防接種を受けたくない人が多い。政治的に誰を支持するかでも違うようだ。マクロンの支持者の半数以上が「予防接種を受ける準備ができている」のに対し、元大統領候補で極左政党「屈しないフランス」の党首であるジャン・リュック・メランション氏や極右国民連合党首のマリーヌ・ルペン氏の支持者にはワクチンを拒否する人が多い。米国でトランプ支持者がマスク保持を頑なに拒否していたような感覚だろうか。

 ともあれ、路上インタビューなどを見ると「ワクチンの開発が異例に早すぎて大丈夫なのか不安」とか「副作用についてきちんと臨床検査は出来ているのか?」と対応が早すぎたのを怪しんでいる節がある。ワクチンに関してだけでなく、フランス人の言われたことを素直に信じない態度は、騙されないためにも日本人も見習わないといけないところもある。それでも、私はここまで早い対応で頑張ってくれた人々や製薬会社を讃えたい。そして、早くワクチンを受けたい。丁度、ソーシャルネットワーク上でフランス人の友人から送られてきたジョークが現況にあまりにも似ていて笑ってしまった。

 ジョークは以下のとおり:国によってワクチン接種を促すための効果的なコツがあるが、フランス人に効く方法がみつからない。そこで、フランス人に各国のやり方を試してみた。イギリス人には「紳士は皆、ワクチンを打っています」が有効だが、これをフランス人に言ったところ「そんなの関係ない」との答え。ドイツ人には「打ちなさい」が効くが、これも勿論答えは「ノー」。今度は米国人には通用する「隣の人は打っています」を試すが、「他人がどうしたって関係ない」と返答。仕方ないので「あなたは何人ですか?」と聞いたところ、「フランス人だ」と言う。「それなら、あなたはその権利がありません」と答えたところ、フランス人はワクチンを接種した。…というオチだった。

  

 

 

何故フランス人はワクチンを接種したくないのか?

 ついに、フランス全土の老人ホームなどでコロナウイルスのワクチン接種が始まった。まずは高齢者、次は医療従事者、疾患のある患者の順番となり、健康な人へ渡るのは2021年の春~夏になるという。

 当然、早く自分の番が回ってこないかなあと思っていたところ、なんと、フランス人の59%は「(Covidの)ワクチンを接種するつもりはない」というアンケート結果が出ていた(Ifopが2020年11月26-27日の間に18歳以上の1013名を対象に行ったオンラインインタビュー)。もう一つの世論調査では、14%が「ワクチンを接種するつもり」、36%が「接種するだろう」とし、反対に29%が「恐らくワクチンを受けない」、21%が「受けないだろう」としている(Odoxa-Dentsu Consultingが11月10-11日に1005人を対象に行った調査)。

 つまり、二人に一人が打たないということだ。15カ国を対象にワクチン接種の意向を調査したデータでも、80%以上を超えるインド、中国、韓国を別にしても、英国(79%)、カナダ(76%)、日本(68%)、ドイツ(69%)などは「接種するつもり」が60%以上を超える。肯定的な回答が50%代のフランスは先進国の中でも最下位となっている。

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Credit photo PHANIE, www.lequotidiendumedecin.fr

 フランス人がワクチンに懐疑的なのは何故だろう?もうすぐ、第3回目のロックダウンに突入するかもしれない状況下、全国民が喜んで打ちたいと思わないのだろうか?

 身近のフランス人に聞いてみたところ、「コロナウイルスの感染が始まった当初、マスクが足りなかったために”マスクは有効ではない”などとデタラメを言うから政府への不信感が募ったのだ」との答えが返ってきた。果たしてそうなのだろうか。

 この質問に答える非常に興味深い記事を見つけた。

www.francetvinfo.fr

 上記の記事ではこの根深い不信感の理由として幾つかの原因を挙げている。

1.過去の医療スキャンダルによる政府への不信感

2.ワクチンを拒否することで政府へ懐疑的という政治的な意思表示

 この不信感については公衆衛生と感染症予防専門家であり、公衆衛生高等研究院で社会心理学の研究者ジョスリン・ロード氏のインタビューが面白い。同氏によるとフランス人の不信感の始まりは2009-2010年頃の新型インフルエンザ(H1N1)から始まったという。

 フランスは近代細菌学の祖と言われる微生物学者ルイ・パスツールが狂犬病などのワクチンを開発し、その発展に一役買ったこともあり、2005年までは90%のフランス人がワクチンを支持していた歴史があるという。

 ところが、新型インフルエンザの感染に対応するために当時バシュロー保険大臣が様々な製薬会社に数億ユーロ相当の9400万回分のワクチンを注文した。しかし、注文したワクチン株の600万回分しか使用しなかったのだ。バシュロー保険大臣にアドバイスした多くの専門家が製薬会社と癒着していたのではないかと問題視された。

 これより、政治家と製薬会社がつるんで「金儲けをしているのではないか」という懐疑案が浮上したという。これに加えて製薬会社セルビエが糖尿病薬メディアトールの副作用による薬害が社会問題となり、製薬会社への不信感は更に募ったと分析する。

Edition du soir Ouest France

 →の第二弾に続きます