あけにーブログ 〜フランスで考えたあれこれ

日本では余りに伝えられないニュース、メディア、ドキュメンタリー、本、美術、旅行記などを紹介。

フェイクニュースと選挙運ー影響を裏付けるドキュメンタリ番組「嘘の工場」の紹介

 迫る米国の大統領選についてはフランスでも非常に注目されており、随分と前からフランスの大統領選か?と思うぐらいトランプ大統領や民主党候補のバイデン氏に関する様々な報道が飛び交っている。米国大統領選の結果が如何に欧州への影響があるかの表れだろう。

 その中で、最近、目から鱗が落ちる番組をフランス国際放送TV5MONDEで見た。「嘘の工場ーフェイクニュースが握る力」という番組だ。

 

www.france.tv 2020年11月24日まで無料で視聴可能

 ドキュメンタリーの概要は様々なフェイクニュースや陰謀説をビジネスとするサイト(9.11の陰謀説で一躍有名になった「Info WARS」など)を紹介したのち、それらフェイクニュースが如何に政治キャンペーンの新しい武器になったかを証明、分析する。フェイクニュースを流すことでお金儲けをする企業があると知っていたが、ここまで政治的にフェイクニュースが力を持つとは全く知らなかった。

 ドキュメンタリーでは、冒頭にQアノン(※)という陰謀論支持者グループが現在、いかに米国社会に浸透しつつあるか、それらネット上のグループが政治的勢力と成りつつあることを警告。FBIもQアノンを「国内の潜在的危険となるグループ」と報告している。番組では米連邦議会や米国政府内にもこの信奉者または、肯定的な人物が多くいることを名前を挙げて紹介し、政府への影響が増すであろうと警鐘を鳴らしている。

 Qアノンとはネット上の匿名の人物「Q」とそれを支持する匿名(アノニマス)の支持者をくっ付けて「QAnon(Qアノン)と呼び、アングラ掲示板の4チャンネルから始まった。Qアノンの陰謀説は「コロナウイルスは存在しない」と言った荒唐無稽な主張ばかりだ。その中でも軸となる理論はDeep Statesなる政府機関内部にいる裏切り者たちによる闇の児童人身売買が存在しているというマユツバものの話だ。

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Shannon Stapleton-REUTERS/Newsweek/Anonymous vs. QAnon: Hackers Target Conspiracy Theory

 

 

※ QアノンについてはNewsweekの日本版で国際政治学者の六辻彰二氏が「塗り替わる世界秩序」というコラムで詳しく言及している。drl6uo2pre3aa.cloudfront.net

https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2020/09/q_1.php

  このQアノンが急激に増えた理由は二つある。一つはコロナウイルスで外出禁止になった人々が多くの時間をインターネット上で過ごしたこと。もう一つはFacebookやYouTubeといったサイトがユーザーの好みによってサイトを勧めるアルゴリズムの手順により、トランプ支持者やマスク使用反対者などにQアノンを勧め、急増した。このため10月中旬にFacebookはQアノンに関するサイトを全て削除する決断をした。

 番組ではQアノン支持者は米大統領が何をしようと救世主であるために盲目的なトランプ支持者であり、これが米大統領選挙に影響を与える可能性があると締め括っている。

再びロックダウンでトドメの一発 

 10月29日の0時からフランス全土が再びロックダウンとなった。フランスの地方紙、ラ・ボワ・デュノールの紙面には「4ヶ月後に振り出しに戻る」との見出しだった。再びホームワーク、家族以外は誰とも会わず、外出時にはその理由を説明する証明書を携帯にダウンロードする生活に入る。

 ロックダウンの前日、色々な用事で奔走していたのは私だけではない。車で道は大渋滞、店内は混み合っていて、カフェやレストランはマスク無しの人々が外まで溢れていた。人々は「これが最後」と集まったり、友人と会ったりしていた。

 前回の2ヶ月間のロックダウンでその大変さを実感していたせいか、今回は流石に皆ガックリ来ている。そのせいか、ロックダウン3日目には車は走っていないものの人が結構街中を歩いている。今朝の市場もかなりの人で溢れていた。

 また、前回は20時に窓辺で医療関係者に敬意を表して拍手をする習慣があったが、今回はまだそういったイニシアチブはない。おそらく多くのフランス人は打ちひしがれているのだろう。感染拡大の抑制のために仕方ない対応と諦めていても、テロ事件などと重なり、かなり精神的に参っている模様だ。

 そのためか、今回のロックダウンはかなり緩いように見受ける。前回と違って学校は閉鎖されず、公園なども閉鎖されていない。依然として食料品やホームワークに必要な商品を売っている商店は開店を許可、レストランや映画館などの文化施設は閉鎖される。

 それでも、2回目のロックダウンをフランス人は「飲み込む(苦い薬を我慢する=avaler la pilule)のが難しい」ようだ。友人の学校教師は証明書の時間を書き消しして何度も外出するつもりという。仕事で危険に晒されているのに外に出られないのはオカシイと腹を立てている。店を開けられない商店などはこれ以上、損失を被ったら閉店すると怒って抗議している。経済的な不安も広がる中、フランス政府が戦わなければいけないないのは、コロナウイルスだけでは無さそうだ。

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アメリカに逆らったらどうなるかを体現したアルストムの元役員の話 ~フランスのとってもユニークなラジオ番組紹介

  フランスのラジオ番組は非常に聞きごたえがあるといつも感心する。日本にいた頃はラジオを聞いていなかったので、比較するのも失礼だが、フランスではラジオがかなり定着しており、私も好きな番組のPod Castをよく利用している。

 中でもお勧めなのが公共ラジオのフランス・アンテール(France Inter)の「デリケートな事件簿(Affaire Sensible)」という番組だ。記者ファブリス・ドルエールが製作する非常にユニークな番組で、ドキュメンタリー形式で事件を音声で再現する事件簿である。月から金まで毎日、15時から1時間、様々なテーマを深く掘り下げ、例えば大統領のスピーチや検事の応答など実際の当時の音声を利用しているのが特徴だ。

 ある事件を掘り下げて調べ上げ、それを元に当事者に扮する声優が、あたかも自ら経験したように事件を語っていく。これが聞いていて、結構、ドキドキハラハラする。ドキュメンタリーというのも憚れるがノンフィクションをベースにした新しいジャンルの番組と言っていい。

www.franceinter.fr

 その番組で一際面白かった事件簿がある。「人質(Otage)」というタイトルの回で、重電大手アルストムの元取締役が米国に”人質”として拘束された事件だ。拘留、長い投獄期間を経た釈放まで毎回54分、4回に別けての放送になっている。この事件簿は「アメリカの罠(邦題:アメリカントラップ)」の著者フレデリック・ピエルッチ氏の体験談が元となっている。その体験の恐ろしさに背筋が震え上がった。

 事件は彼が飛行機の到着直後にFBIに出迎えられ、「海外腐敗行為防止法(foreign corrupt practices Act、以後「FCPA」)」の容疑で逮捕されるところから始まる。ニューヨーク郊外の悪名高い刑務所に連行され、全く身に身に覚えのない濡れ衣を着せられ、次から次へと悪夢のような出来事が振りかかってくる。後に、米GEが国ぐるみでアルストムのエネルギー部門を買収するために当時のアストム社長(パトリック・クロン氏)向けの警告及び揺すり攻撃であったことが判明する…

「アメリカの罠」フレデリック・ピエルッチ著 日本語翻訳版:

honto.jp

 長い番組にも関わらず、息を呑むサスペンス小説のようで、最後まで一挙に聞かずにはいられない。なによりも、アメリカが国を挙げて外国企業を揺する様に身震いがした。ピエルッチ氏によると米司法省がFCPAを適用して欧州企業の経営幹部を追訴し、巨額の罰金を支払わせた額は6億ドル(約627億円)以上にも及ぶという。

 この本は日本語にも翻訳されているので、大企業のビジネスマンなどには保身のためにも絶対に読んで欲しい。こういった欧州大企業の取締役を対象にした米国の脅し工作の被害にあったのはピエルッチ氏だけではないからだ(ピエルッチ氏によると2008年以来、同氏を含め6て6名が米司法から起訴されている)。

 番組の最終回では著者本人が登場し、インタビュー形式で事件の詳細が明かされノンフィクションであることを実感する。事件が淡々と語られるのでなく、当事者が事件を回想するというユニークな番組構成のお陰で非常に身近に感じる。もっとも大企業の取締役でもないので自分には関係ないだろうが、それでも「明日は我が身」と感じるアメリカの怖さを体感した。

 

フランスラジオのドキュメンタリーシリーズ(デリケートな事件簿”Affaire Sensible)

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

このドキュメンタリーの元となった著者フレデリック・ピエルッチ氏の紹介

www.youtube.com

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フレデリック・ピエルッチ著「アメリカントラップ」は2019年にフランス新人権文学賞を受賞した

 

神への冒涜罪で首を切られた歴史教師 フランス社会を震撼させる

2020年10月16日、フランスが震撼した。中学校の歴史の教師が、学校付近の道端で無残に首を切断されたからだ。事件は、表現の自由に関わる授業で、被害者の教師が生徒に風刺画を見せたことに端を発した。風刺週刊誌シャーリー・エブド誌に掲載された、テロ事件に纏わるムハンマドの風刺画を見せたのだ。

フランス中が震撼したのは、ニュースで報道されたときの「Decapitation*」という一つの単語でその野蛮さが伝わったこと(犯人は警察に射殺される前に、インスタグラムに被害者の首を載せている)や、フランス革命からフランス社会を支える価値観、「自由・平等・友愛」の一つである「表現の自由」が脅かされたからだ。

※ラテン語で頭"Cap"を体から離す"de"という語源で、日本語で言う”首を切る”というセンテンスが凝縮されている

またこの事件で燻っていた社会問題が浮き彫りにされた。それはフランス社会に共存する多くのイスラム移民、フランス国籍となったイスラム教徒とフランス人との溝だ。今回の事件は、これを更に大きくした。今後、フランス社会でのイスラム教徒への風当たりはさらに厳しくなるだろう。

事件は、殺害された教師Samuel Paty氏が授業をする前に、態度が悪いという理由で退出させられたイスラム教徒の女生徒から始まる。彼女は3日間の登校禁止処分を受けていたにも関わらず、授業でポルノ画を見せられた※と両親に告げ口をした。両親は学校に苦情を持ち込んだ後、これをネットに載せ、イスラムコミュニティが取り上げた。こうして、インスタグラムなどのソーシャルネットワークが伝手となり離れた地域に住んでいた18歳のテロリストが被害者の教師を特定することが出来たのだ。

※シャーリーエブド誌の風刺画は、預言者のお尻から星が出ている、という内容であった。

つまり、表現の自由を教えることによってどんな教師も殺害される可能性があることを示唆しているのである。

 現在、フランス各地で表現の自由を支持するデモが行われている。

写真:  L'express.fr より

Devant le collège de Samuel Paty : "Je ne me suis jamais autant intéressée à l’Histoire qu'avec lui"