あけにーブログ 〜フランスで考えたあれこれ

日本では余りに伝えられないニュース、メディア、ドキュメンタリー、本、美術、旅行記などを紹介。

アメリカに逆らったらどうなるかを体現したアルストムの元役員の話 ~フランスのとってもユニークなラジオ番組紹介

  フランスのラジオ番組は非常に聞きごたえがあるといつも感心する。日本にいた頃はラジオを聞いていなかったので、比較するのも失礼だが、フランスではラジオがかなり定着しており、私も好きな番組のPod Castをよく利用している。

 中でもお勧めなのが公共ラジオのフランス・アンテール(France Inter)の「デリケートな事件簿(Affaire Sensible)」という番組だ。記者ファブリス・ドルエールが製作する非常にユニークな番組で、ドキュメンタリー形式で事件を音声で再現する事件簿である。月から金まで毎日、15時から1時間、様々なテーマを深く掘り下げ、例えば大統領のスピーチや検事の応答など実際の当時の音声を利用しているのが特徴だ。

 ある事件を掘り下げて調べ上げ、それを元に当事者に扮する声優が、あたかも自ら経験したように事件を語っていく。これが聞いていて、結構、ドキドキハラハラする。ドキュメンタリーというのも憚れるがノンフィクションをベースにした新しいジャンルの番組と言っていい。

www.franceinter.fr

 その番組で一際面白かった事件簿がある。「人質(Otage)」というタイトルの回で、重電大手アルストムの元取締役が米国に”人質”として拘束された事件だ。拘留、長い投獄期間を経た釈放まで毎回54分、4回に別けての放送になっている。この事件簿は「アメリカの罠(邦題:アメリカントラップ)」の著者フレデリック・ピエルッチ氏の体験談が元となっている。その体験の恐ろしさに背筋が震え上がった。

 事件は彼が飛行機の到着直後にFBIに出迎えられ、「海外腐敗行為防止法(foreign corrupt practices Act、以後「FCPA」)」の容疑で逮捕されるところから始まる。ニューヨーク郊外の悪名高い刑務所に連行され、全く身に身に覚えのない濡れ衣を着せられ、次から次へと悪夢のような出来事が振りかかってくる。後に、米GEが国ぐるみでアルストムのエネルギー部門を買収するために当時のアストム社長(パトリック・クロン氏)向けの警告及び揺すり攻撃であったことが判明する…

「アメリカの罠」フレデリック・ピエルッチ著 日本語翻訳版:

honto.jp

 長い番組にも関わらず、息を呑むサスペンス小説のようで、最後まで一挙に聞かずにはいられない。なによりも、アメリカが国を挙げて外国企業を揺する様に身震いがした。ピエルッチ氏によると米司法省がFCPAを適用して欧州企業の経営幹部を追訴し、巨額の罰金を支払わせた額は6億ドル(約627億円)以上にも及ぶという。

 この本は日本語にも翻訳されているので、大企業のビジネスマンなどには保身のためにも絶対に読んで欲しい。こういった欧州大企業の取締役を対象にした米国の脅し工作の被害にあったのはピエルッチ氏だけではないからだ(ピエルッチ氏によると2008年以来、同氏を含め6て6名が米司法から起訴されている)。

 番組の最終回では著者本人が登場し、インタビュー形式で事件の詳細が明かされノンフィクションであることを実感する。事件が淡々と語られるのでなく、当事者が事件を回想するというユニークな番組構成のお陰で非常に身近に感じる。もっとも大企業の取締役でもないので自分には関係ないだろうが、それでも「明日は我が身」と感じるアメリカの怖さを体感した。

 

フランスラジオのドキュメンタリーシリーズ(デリケートな事件簿”Affaire Sensible)

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

www.franceinter.fr

このドキュメンタリーの元となった著者フレデリック・ピエルッチ氏の紹介

www.youtube.com

f:id:akenochan:20201026184516j:plain

フレデリック・ピエルッチ著「アメリカントラップ」は2019年にフランス新人権文学賞を受賞した